特集記事抜粋
 

Vol.26 −特集「劇場復興 Renaissance」−(2007年 夏号)
【CONTENTS】
特集 「劇場復興 Renaissance」
Sketch of Yoshino River 「剣山トレッキング」
この人と吉野川/ NPO法人 元気やまかわネットワーク理事長 尾賀 俊吉さん
吉野川流域イベント・レジャー情報 ほか
特集 「劇場復興 Renaissance」
かつて徳島県は全国一の農村舞台を持つ芸能の先進地でした。
時代とともに忘れられ、朽ちかけていた農村舞台に
再び人々の目が集まりつつあります。

 阿波の人形芝居は、淡路人形浄瑠璃が起源と考えられています。初代徳島藩主・蜂須賀家政は人形芝居を保護・奨励し、淡路の人形座が諸国巡業に出るときには、まず徳島城下で勧進興行をさせるのが恒例でした。こうして、淡路の人形芝居が阿波に広まっていったと考えられています。江戸末期〜明治初期にかけてもっとも栄え、多くの人形座が生まれ、優れた人形師も輩出しました。
 農村舞台とは、農山村にあって人形浄瑠璃芝居を演じる常設の舞台のことです。昭和42年から2年間にわたって行われた調査によると、全国に存在する1921棟の農村舞台の内、徳島県には一番多い240棟が存在。そして、そのほとんどが人形芝居用の舞台でした。民衆の間にいかに広く深く人形浄瑠璃芝居が浸透していたかがわかります。
 徳島県の農村舞台は、那賀川、勝浦川の流域や県南の沿岸に集中しています。
吉野川流域の藍作地帯では、「小屋掛け」と呼ばれる仮設の芝居小屋で、淡路や阿波の人形座を招いて行われました。吉野川流域でも、交通の便の悪い山村や非藍作地域では、神社の境内などに農村舞台が立てられました。
 農村舞台の規模は、間口5間(約9m)・奥行き3間(約5・4m)くらいのものが多く、多くは舞台上手(右側)に義太夫節を語る太夫と三味線弾きが座るための「太夫座」が設置されています。また、徳島の舞台装置で全国的にも珍しいものに「襖カラクリ」があります。もともとは、舞台の背景画であった襖絵を様々な手法で早替りさせて見せるようになったものです。徳島市の犬飼農村舞台のように襖カラクリ自体をメインの演目としているのは全国的にも珍しいのだとか。
 江戸時代から昭和初期にかけて、農村舞台は人々の集う大切な場でした。人形芝居や浄瑠璃、歌舞伎、素人芝居などが上演される娯楽の殿堂であり、寄合いや宴会の会場でもあり……つまり今でいう
コミュニティセンターのような役割を果たしていたといえます。ところが、娯楽の多様化や生活スタイルの変遷に伴い、次第に人々の足は遠のき、たくさんの農村舞台が取り壊されたり、朽ち果ててしまいました。
 近年の文化財保護や伝統芸能育成の気運の高まりで、再び農村舞台にスポットが当たり始めています。全国に誇る貴重な文化財を掘り起こし、保護し、地域の活性化につなげていこうと、平成15年には「阿波農村舞台の会」(大和武生会長)が発足。地元の人々と協力しながら、法市(東みよし町)、小野(神山町)、拝宮(那賀町)などの農村舞台復活に尽力しています。



●葉たばこの里・法市(ほいち)に甦った農村舞台
 東みよし町東山字法市は、吉野川を見渡す山の斜面に位置する15戸の小さな集落です。葉たばこ畑を横目に見ながら登っていくと、船渡神社の境内にたたずむ農村舞台が見えてきます。
 法市農村舞台は寛政3年(1789)建造、明治32年(1899)改修という、古い歴史を持った建造物です。大きさは間口5間・奥行き2間半、仮設式舟底舞台という県下でも珍しい構造をしています。この農村舞台は、平成13年、東京理科大学の川上光洋さんによって発掘されるまで、地域でも忘れられていました。なにしろ「80歳になる村の人も知らなかった」というのです。教育委員会、阿波農村舞台の会の協力も得て、平成15年に80年ぶりの復活公演を開催。境内をうめつくす観客に法市の人々は感動しきり。過疎の村に少し活気がもどってきました。
 この公演を機に「法市農村舞台保存会」(大久保進会長)が発足し、毎年秋に公演を重ねてきましたが、雨漏りや腐食などで老朽化がひどいため、思い切って改修することに。実に108年ぶりとなる平成の大改修です。地元15戸や県内から支援金を募り、木材の多くは地元のヒノキやスギなどを現物提供してもらいました。
 傾いていた土台を修復し、腐った柱を替え、壁を塗り替え、順調に進んでいた工事に問題が…。龍の化粧瓦を焼き固めたところ、龍のガラス目が溶けてしまったのです。「…龍が泣いてる…」ここで保存会の細川努さん(59歳)は、逆転の発想をしました。「文化財として継承するだけでなく、時代と共に、地域に合わせて変化する部分もあっていいんじゃないか? 平成の技術・LED(発行ダイオード)を入れよう!」
 生まれ変わった舞台で、10月14日、お披露目公演が開催されました。
【問】法市農村舞台保存会TEL 0883・79・2839(大久保)、79・2838(細川)


●人形舞台の里・神山町を訪ねて

 神山町は、かつては十以上の農村舞台があり、江戸時代に起源を持つ人形座「寄井座」が現在も活躍し、また、172組1459枚もの襖絵が残っている、「人形芝居の里」です。
 神山町に現存する唯一の農村舞台が、小野天王神社(神山町神領字本小野)境内に建つ「小野さくら野舞台」です。創建は1951年。手前に舞台、奥に別棟の神殿を配した拝殿形の舞台です。
 昭和35年頃まで人形芝居はもちろん、映画会や寄合いなどに使われていましたが、平成13年に復活公演が行われるまで、やはり人々の暮らしからは遠ざかっていました。今年、地元住民40名で作る小野さくら野舞台保存会(小川一清会長)が中心となって、改修工事に踏み切りました。屋根の補修、楽屋の新設、照明設備の増設、そして襖絵130枚が入る収納庫を新設。襖カラクリが上演できるように鴨居も改築しました。現在、保存会の女衆がカラクリ操作の練習に励んでいます。
 舞台は間口を広げ、ヒノキ造りの蔀帳も設置。前方に倒せばぐっと舞台が広がります。人形芝居だけでなく、ダンス、コンサート、アート展示など多目的に利用していき、地域の人々が気軽に集い、交流できる場にしていきたいと、小川会長は話してくれました。
【問】小野さくら野舞台保存会 TEL 088・676・0684(小川)


●劇場「寄井座」復活プロジェクト

 もうひとつおもしろい復興の動きがあります。神山町神領の劇場「寄井座」です。
 創建は大正末期。当時の神領地区は林業で栄え、劇場は人形浄瑠璃や映画、芝居や浪曲、地元劇団の公演などが行われ、娯楽の中心として大いににぎわいました。しかし、林業の衰退とともに町の活気も失われ、劇場は昭和35年(1960)に閉鎖。その後は改装されて縫製工場として使われていましたが、それも10数年前に閉鎖され、いつしか忘れられた存在になっていました。
 5月中旬、NPO法人グリーンバレー(大南信也理事長)が劇場復興に乗り出しました。傾いていた基礎を改修し、傷んだ柱や床板を補強、そして、吊り天井を取り外すと、現れたのがこの見事な広告天井。神領地区の商店はもちろん、養蚕でつながりのあった筒井製絲などの名前もあり、当時の町の様子がよくわかります。大南さん曰く「当時の絵地図やな」。
 8月に「復活記念映画会」を開催。これからの動向が楽しみです。
【問】 NPO法人 グリーンバレーTEL 088・676・1177


この人と吉野川  連載19回
NPO法人 元気やまかわネットワーク理事長  
尾賀 俊吉(おが しゅんきち)さん


 この人達の話を聞いていると、山川町が自然や文化財の宝庫のように思えてきます。そして、まさしくそれを実現する活動をしているのが、「NPO法人 元気やまかわネットワーク」なのです。
 「元気やまかわネットワーク」の発足は平成10年6月。きっかけは、平成8年に町が企画した山川町まちづくり推進委員会でした。町に提出した答申を、住民自らが活動して実現していこうと、委員であった尾賀俊吉さん(74歳)が呼び掛けて会を発足させました。平成14年にNPO法人となり、
現在は会員約100名、中高生26名のジュニアクラブも所属する大所帯です。
 発足当時から熱心に取り組んできたのが町を流れるほたる川の環境保全活動。清掃活動や水質調査、環境教育など、年間を通じて活動しています。生活排水で汚れていたほたる川ですが、最近では水質もずいぶん向上し、上流では昔のようにほたるも見られるようになってきました。
 活動のもうひとつの柱は地域文化のほり起こし。平成14年に始めた「ふるさとアメニティ資源調査」で、忘れられていた遺跡や名所、民話や伝承、魅力的なスポットなどの情報をたくさん得ることができました。高越山や吉野川などの豊かな自然、阿波和紙などの伝統文化、阿波国の基礎を築いたといわれる忌部にまつわる遺跡………「この資源を活用し、町全体をフィールド・ミュージアムと考えて活動しています」と尾賀さん。でも、この町の一番の宝は、この元気な人達かもしれません。

●NPO法人 元気やまかわネットワーク(事務局)
吉野川市山川町祇園51 美山苑内
TEL 0883-42-7111 FAX 0883-42-6655
吉野川ニュース
●絶好のコンディションに恵まれた第3回さかな博士の川魚かんさつ会

 年々人気の高まる「さかな博士の川魚かんさつ会」を、今年も7月21日、鮎喰川にて開催。渇水で川の状態が心配されましたが、台風4号による増水で川底にたまっていた有機物が洗い流され、川は透き通るよう! 魚博士こと佐藤陽一先生曰く「魚観察には絶好のコンディション」。
 佐藤先生から魚のつかまえ方を教わり、親子18組51名が網を手に川へ。5分もしないうちにあちこちから「とれた!」と声が上がり始めました。約1時間の実習の後、とれた魚を持ち寄って佐藤先生に解説をしてもらいました。この日とれたのはオイカワ、カワヨシノボリ、ヌマチチブ、アカザなど13種の魚、それにテナガエビやモクズガニなど。大漁(!?)にわいた観察会でした。


●平成19年度総会開催

 平成19年度吉野川交流推進会議総会を5月30日、ホテルクレメント徳島で開催しました。多数の御臨席ありがとうございました。今年度の事業計画は左記の通りです。

交流事業
・アドプト・プログラム吉野川の推進
・親子体験事業の実施
・吉野川ブック「川はともだち」の作成・ 配布
・地域イベントとの交流事業の実施
・流域間交流事業の実施
・インターネットによる交流事業の実施

情報発信事業
・機関誌「四国三郎吉野川」の発行及び、 本会議設立10周年記念誌の発行
・各種イベントで吉野川の魅了をPR
・ホームページの充実による情報発信

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