特集記事抜粋
 

Vol.30 ー食ー(2012年3月)
四国を潤す大河・吉野川と剣山系や阿讃の深い山々、瀬戸内海や鳴門海峡など自然に恵まれた徳島県は食材の宝庫。
なかでも、吉野川流域の肥沃な土地で栽培される野菜は一級品。
京阪神へと出荷され高い評価を得ています。

阿波市で農園を営む武澤豪さんは
「手をかければかけるほど結果になって返ってくる」と
農業の魅力を語ってくれました。
丹精こめた野菜を自分で販売するおもしろさや夢もーー。

話題のとくしまマルシェ、
流域最大の農産地・善入寺島、
体験型農家民宿など、
吉野川流域の「食」の取り組みを紹介します。



【CONTENTS】
■特集 「食」Tokushima Brand
■Sketch of Yoshino River
     第22回 佐那河内村
■Yoshinogawa News
      三兄弟河川交流に寄せて
      Yoshinogawa Diary ほか
とくしまマルシェ
徳島のとっておきの“おいしいもの”と、生産者の笑顔が魅力。
新町川沿いに並ぶお洒落な朝市は行くだけで元気になる空間です。



 しんまちボードウォークに並んだ50個もの白いパラソルショップ。徳島産の旬の野菜や果物、ジャム、洋菓子、調味料の数々が目に飛び込んできます。「いらっしゃいませ!」「先月おいしかったけんまた来たんよ。レタス10個ちょうだい」と、にぎやかな会話の花。浮きステージではライブも始まりました。行き交う人、人、人の波!! これが、毎回1万人以上が集まるという「とくしまマルシェ」です。
 2010年12月26日にスタートして1年以上。今や、県外からも観光客が足を運ぶ注目のスポットとなっています。




マルシェというブランド

 とくしまマルシェは、農業ビジネスや観光の活性化と、街のにぎわい再生を目指して徳島経済研究所が打ち出した「徳島県の農業ビジネス活性化構想」の一部を具現化したものです。

 フランスのマルシェ(朝市)のようなお洒落で楽しい空間を作るため、選ばれたのはしんまちボードウォーク。陳列用の木箱もロゴマークの焼印が入ったものに統一するなど、お洒落な雰囲気の演出もひと工夫。出店者は公募せず、事務局がこだわりの農業に取り組む農家を厳選し、一軒一軒訪問して現地を調査してから出店を依頼するという方法
をとっています。つまり、徳島産農産物のなかでも、選りすぐりの逸品が集結する場というわけです。

 生産者自らが直接販売を行っているのも大きな特徴。消費者の生の反応や声はなによりのアドバイスであり、大きな励みになります。それがまた、よりよい商品づくりにフィードバックされ、マルシェの商品の質を高めていくのです。



もうひとつのマルシェ

 「とくしまマルシェ」は毎月最終日曜日開催ですが、もうひとつのマルシェは24時間営業です。第1回開催と同時に、インターネット販売を行うWebサイト「とくしまネットマルシェ」をスタートさせ、ブログやツイッター、ユーストリームでのライブ中継など、ITを駆使して全国へ情報発信を行っています。フォトアルバム、出店者や商品の詳しい紹介など内容が充実しており、マルシェの楽しい雰囲気が伝わってきます。  



ひろがる、つながる

 開始から1年が過ぎ、首都圏の百貨店への出張市や、作物の植付けから収穫・加工・販売という一連の流れを子どもたちが体験する「食育プロジェクト」など、次々と新しい試みが始まっています。

 マルシェで生まれた出店者のネットワークから、その名も「若士の会〜食と農に携る交流会」も発足しました。マルシェの出店者を中心に、若手農業者や加工業者、飲食店関係者らが参加。情報・意見交換をするなかで、商品やメニューのコラボ、新しいビジネスチャンスが生まれています。

 また、マルシェをきっかけに、「とくしまグルメフェスタ」や「銀座けやき市」など新町川周辺で次々とイベントが開催されるようになりました。点が線に、線が面に  人の流れが広がり、中心市街地ににぎわいがもどってきました。

 毎月最終日曜日は新町川へ。徳島のとっておきの食と、魅力ある人に出会えます。


吉野川の恵み

吉野川中流域に広がる善入寺島は吉野川最大の川中島。
豊かな沃土と水、温暖な気候を生かした流域最大の農産地でもあります。


 善入寺島は河口から約30㎞、吉野川市川島町と阿波市市場町にまたがって位置します。東西6㎞、南北1.2㎞、面積は実に約500haにわたり、吉野川のみならず日本最大級の川中島です。古くは粟島と呼ばれ、忌部氏が粟を植えたら豊作だったことから地名になったという伝承が残っており、それほど昔から農耕が営まれてきた豊かな土地です。
 善入寺島で農業を営む大幸食品株式会社の木村秀正さん(69歳)に島を案内してもらいました。潜水橋を渡って島に入ると、まずその景色にびっくりします。建物は一軒もなく、見渡す限り畑、畑、畑! 果てしない農地の向こうに竹林、そして高越山がかすんで見えます。
 善入寺島は大正初期まで約500戸、3千人が住んでいました。吉野川の第一期改修によって遊水地化されることが決まり、1915年(大正4年)に全島立ち退きとなりました。今は約580戸が農耕を営んでおり、作付面積はなんと365ha!木村さんはその8%を占める農地で、大根、じゃがいも、キャベツ、千両ナス、きゅうり、ほうれん草などを栽培しています。
 吉野川デルタのミネラル豊富な砂地、北岸用水から供給される吉野川上流のきれいな水、温暖な気候という農業には願ってもない条件。木村さんはさらに研究を重ね、有機農法で安心・安全な野菜作りをしています。「適量な有機肥料で育った作物は健康で丈夫、だから虫もつきにくく、農薬も少なくてすむ」と木村さん。川中島だけに台風の被害もしばしば。「10年に1回は大水が出る。仕方がない。でも、それに対応して策をしとるんよ」
ソルゴーという背の高いイネ科植物を防風・防水用に畑の周囲に植え、時期が終わったら刈り取って、有機肥料にするのだとか。
 出荷作業中の畑を見せてもらいました。雪の舞う中、カマを手に収穫に精を出す皆さん。作業はすべて手と、目で行います。「今日はこんな天気やけど、春はうぐいすが啼いて作業も気持ちいいんですよ」と話してくれました。
 大幸食品の野菜は主に関西圏に出荷され、「安心、安全、味がいい」と評判です。今後は吉野川市と協力して「善入寺島をブランドとして打ち出していこう」という構想をいだいています。善入寺島の野菜を、吉野川の豊かな恵みを全国へ届けたいーーー夢が広がります。


農家民宿

収穫や加工などの農村体験を通じて、
豊かな自然と地産の恵みを味わうことができます


 国指定天然記念物の川田川の蛍、にほんの里百選のひとつ「高開の石積み」など、自然豊かな吉野川市美郷地区。その美しい自然の中で昔ながらの暮らしを体験したり、地産の幸を味わったり、もてなしの心にふれてほしい  平成20年度から美郷地区が取り組んでいる地域体験型観光が人気です。体験メニューをまとめたガイドブックの配布や、受け入れ態勢にも力を入れ、順調に参加者を増やしています。
 その中核となっている農家民宿のひとつ、川村順一さん(61歳)・里子さん(57歳)ご夫婦が営む「きのこの里」を訪ねました。椎茸栽培をしていた川村里子さんが「きのこの里」を始めたのは2008年。「こんな田舎にお客さんや来てくれるんかな」との心配をよそに、今では県外のリピーターもいるほど。玄米、季節の野菜や山菜、手作りのこんにゃくや乾物、梅など地産の食材を使った、体にやさしい美郷流マクロビオティック料理が自慢です。「すべて手作り。遠い所から来てくれるんじゃけん手間暇かけて、な」と里子さん。美郷色にこだわり、梅を味付けや彩りのアクセントにしているのも特徴です。
 こんにゃく作り、そば打ち、椎茸の収穫、魚釣りなど体験メニューも好評です。季節に合わせて、また、それぞれの民宿や施設の特色を生かしてメニューは変わります。地元の人々にとっては日常の家事や作業に、お客さんが目を輝かせて取り組む。その姿は、美郷の人々にとっても地域の良さを見直すいい機会になっています。
 美郷の恵みに体をほぐされ、豊かな自然とあたたかいもてなしに心をほぐされる農家民宿。一度訪ねてみませんか?

【問合せ】
農家民宿 きのこの里 TEL 0883-43-2370
http://misato-smile.jp/


YOSHINOGAWA NEWS
◇平成23年度総会

 平成23年5月25日、ホテル千秋閣で開催した平成23年度吉野川交流推進会議総会において、事業計画等を協議いただきました。また、アドプト・プログラムに参加し、2年以上活動を継続し、かつ初めて再度の合意書を締結した団体・企業に感謝状を贈呈しました。

交流事業
 ◆アドプト・プログラム吉野川の推進
 ◆子どもとの交流体験事業の実施
 ◆地域イベントとの交流事業の実施
 ◆流域間交流事業の実施
 ◆国土交通省との共催事業の実施
 ◆インターネットによる交流事業の実施・充実

情報発信事業
 ◆機関誌「四国三郎吉野川」の発行
 ◆おでかけ情報・イベント情報の拡充
 ◆各種イベントや媒体広告による活動のPR
 ◆インターネットによる全国への情報発信
 ◆吉野川フォトライブラリーの充実
会員の募集
 イベント等で入会案内を配布したり、加入キャンペーン実施などで、新規正会員を募集。

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◇新町川を守る会が「日本水大賞」大賞受賞 
  
 「第13回日本水大賞」大賞にNPO法人新町川を守る会(中村英雄会長)が選ばれました。水循環の健全化に貢献した活動を顕彰するこの賞、新町川を守る会は第3回の国土交通大臣賞に続いて二度目の受賞です。約20年にわたって河川清掃や遊覧船運航、イベント開催など川を中心とした街づくりに取り組み、今やこの団体を抜きには徳島の川は語れないほど。「大賞に選ばれたことに誇りをもって、これからも市民みんなで水都とくしまを守り育てていきたい」と副理事長の新居直さんは語ってくれました。


昨年6月21日、日本科学未来館で、秋篠宮ご夫妻をお迎えして表彰式と受賞活動発表会が行われました。

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◇三つの兄弟河川がついに揃いぶみ。
秋晴れの筑後の空の下、縁結びの記念植樹が行われました。

  

 日本三大河川に並び称される兄弟川として、「筑紫次郎 筑後川」と「四国三郎 吉野川」の交流・連携を深めていこう   平成18年度から始まった「流域間交流事業」の取り組みのひとつとして、平成23年10月22日・23日の二日間、久留米市で開催された「筑後川フェスティバル inくるめ」に有志約18名で参加しました。
 毎年訪問し合い、意見交換会や現地見学を通じて顔なじみになり打ち解けた川仲間はまるで親戚のようです。今年は「坂東太郎 利根川」から19名が参加し、ついに三兄弟が揃うことに! これを記念して10月22日、フェスティバル会場の筑後川防災施設くるめウスにて、三兄弟河川交流記念植樹が行われました。千葉県木のイヌマキ、福岡県花で大分県木のブンゴウメ、徳島県木で高知県花のヤマモモと、それぞれ利根川、筑後川、吉野川ゆかりの樹木を、メンバーの手で植えました。この後の三兄弟河川交流会議、夜なべ談義でも三河川の交流を深めることができました。
 始まったときは壮大な計画のように思われた三兄弟の縁結び。温暖な筑後の地で三本の木が根を張り、大きく育ちますように。三つの河川が手を携えて、今後どんな花を咲かせていくのか楽しみです。


(左から)利根川、筑後川、そして吉野川交流推進会議の美馬会長と中村副会長。三兄弟の代表による植樹セレモニー


りっぱな記念碑も制作されました


筑後川を訪れた吉野川チーム。大きな手応えを感じました


日本三大河川の兄さんたちを紹介します


坂東太郎 利根川

大水上山を水源として、1都6県にまたがって関東地方を北から東へ流れ、太平洋に注ぐ。流路延長322㎞は信濃川に次いで日本第2位。流域面積は日本一で約16840㎢。これは四国の面積の80%にあたるとか。首都圏の水源として日本の経済活動を支える、名実ともに日本を代表する河川。


筑紫次郎 筑後川

熊本、大分、福岡、佐賀の4県を流れる九州最大の河川。阿蘇山を水源とし、広大な筑紫平野を形成しながら九州北部を東西に流れ有明海に注ぐ。日田美林などで有名な上流の林業、アユ漁やエツ漁、有明海のノリ養殖など、流域の特徴を生かした産業もさかん。流路延長143㎞、流域面積約2860㎢。


三兄弟河川交流に寄せて
〜吉野川のキーマンに語っていただきました〜


吉野川交流推進会議会長
美馬光夫さん


 筑後の地で初めて利根川、筑後川、吉野川の関係者が顔を合わせ、交流できたことで、三河川の兄弟縁組がぐっと前進しました。行政と手を携えながら具体的にプランを詰めていかねばなりません。今後はまず互いに行き来し、より密に交流していくことから。若い人、特に子ども達はその親善大使にぴったり! 両国橋たもとの船着場が4月に完成しますが、そのオープンセレモニーにも両河川の関係者をお招きできればと考えています。



美馬市長
牧田 久さん


 筑後での交流会は第1回目であったので、各河川での取り組み方にそれぞれ温度差があると感じました。しかし、この交流会を開催できたこと自体、大きな一歩です。交流会では各河川の利活用について種々の意見が出されましたが、何よりも大切なことは、この事業に情熱を持って取り組む人材が必要であるということです。人材の育成、そして仲間を増やせるかにかかっていると思います。さらに、三河川の関係者が顔の見える関係を創ることが必要です。



吉野川流域交流塾塾長
大谷國廣さん


 河川清掃や花植え、町おこしイベントなど吉野川上流で20年以上活動していますが、活動の根幹はまず「楽しむ」こと。吉野川はもちろん、利根川にも筑後川にも個性があり、自慢があります。その自慢を持ち寄って交流することで、互いの活動に生かしていければいいですね。何かひとつのテーマを掲げて、同じ日に三河川で連携してイベントを行うのもおもしろいんじゃないでしょうか。




NPO法人 新町川を守る会理事長
中村英雄さん


 私達が積極的に兄弟のところへ行き、また向こうにも来てもらって、互いの川について自慢し合い、知り合うことから交流が始まります。川の特徴はあれども、兄弟の活動から学ぶことはきっとたくさんあるはず。それを吉野川の活動に生かし、経済交流、文化交流にまで発展させていかなければ! そして、三河川が中心になって、日本の川をもっともっと良くしていく、川からの都市再生を目指すリーダーになれればと思います。



吉野川渡し研究会事務局長
日下武久さん


 平成17年、愛知県豊田市で開催された「川の日ワークショップ」で、川を活用した流域間交流として三河川の兄弟縁組を提案したのが始まりでした。ついに顔合わせができ、共通認識ができた! 婚約……あ、男だから盟約かな?(笑)、縁結びができたら披露宴をしてアピールしなきゃね。古人が名付けた「三兄弟」を使って、物的・文化交流を重ね、吉野川を全国ブランドにしていきたいです。川は人と人とを繋ぐシンボル。ゆくゆくは海外の河川に交流を広げていきたいです。
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