特集記事抜粋
 

Vol.22 −特集「吉野川のいきもの」− (2006年 春号)
特集「吉野川のいきもの」
    吉野川の魚図鑑ほか
スケッチ・オブ・吉野川
    “ドイツさん”の息づく町バンドー
この人と吉野川
    正法寺川を考える会会長 米田博さん
YOSHINOGAWA NEWSほか
【特集】吉野川のいきもの
吉野川水系に生息する魚は約200種!
全国でも魚類のもっとも豊かな河川のひとつです

 昨年8月、吉野川交流推進会議の主催で、本誌でも「魚博士」としておなじみの佐藤陽一先生(徳島県立博物館学芸員)を講師に迎えて川魚観察会を行いました。観察のポイントや、魚をつかまえるコツなどのレクチャーを受けた後、参加者は鮎喰川に入って網をふるいました。約1時間の実習で11種類もの魚が観察できたことに参加者は驚き、また、川遊びのおもしろさも実感したのでした。
 吉野川水系に生息する魚は194種(2004年の調査結果)。種類は年々増える傾向にあるので、現在では200種を超えていると思われます。吉野川の魚は淡水魚ですが、一口に淡水魚といってもいろんな種類があります。
[1]純淡水魚(50種) コイやオイカワのように一生を淡水で過ごすもの。
[2]通し回遊魚(19種) アユやサツキマス、ウナギのように産卵のために川を下って海に入ったり、あるいは遡上したりするけれど、一生の間のある時期には必ず淡水に入るもの。
[3]周縁性淡水魚(125種) 汽水域を主な生活の場にしている魚や、ふだんは海にすんでいて、一時的に川に入るもの。トビハゼ、ボラなど。
 吉野川では第十堰より上流が淡水域、堰の下から河口にかけては真水と海水が入り交じる「汽水域」です。汽水域は上流に比べて水温も高く、エサも豊富なので、魚類はもちろん、たくさんの水生生物が生息しています。吉野川水系の魚194種のうち、海と川にまたがって生きる魚([2]と[3])は144種。吉野川の生態系の豊かさは、汽水域の存在によるところが大きいのです。  
 河川改修による環境の変化や水質の悪化など、魚達をとりまく状況は年々悪化の傾向にあります。昭和30年頃まではよく見られたスナヤツメも激減し、今では高知県の吉野川上流域に生息するのみ。カジカのように吉野川で既に絶滅したと考えられる魚もいます。魚のすめる環境を守ることは、自分達を守ることにつながります。人間も魚も、吉野川とともに生きる同じ生態系の輪の中にあるのですから。
 水ぬるむ春。吉野川では魚達がいっせいに活動を始めています。吉野川や支流、身近な用水路などに出かけてみましょう。繁殖期を迎えて赤く色付いたウグイ、寝ぼけ眼のトビハゼ、かわいい稚魚達に出会えることでしょう。

◆基礎知識編◆
●吉野川の魚の分布
 全長194kmという広大な吉野川。上流と下流では水質や水温、川の様子もずいぶん違い、そこにすむ魚の種類も違います。
 吉野川の上流(池田ダム〜源流)は川幅が狭く、「大歩危 小歩危」に代表されるように流れが速いところが多いので、アマゴ(徳島県ではアメゴと呼ばれる)やカワムツなど遊泳力のある魚がすんでいます。中流(池田ダム〜岩津橋)ではアユ、アカザ、カマツカ、シマドジョウなど、下流(岩津橋〜第十堰)ではギンブナ、コイ、ナマズなどおなじみの魚が見られます。第十堰より下流には、スズキ、トビハゼ、タビラクチなど、汽水域独特の魚が数多くすんでいます。
 吉野川本川にはいないけれど、支川の源流域には生息しているというナガレホトケドジョウ、支流の飯尾川につながる用水路にすんでいるタウナギなど、魚の分布もなかなかにナゾが多いようです。図鑑片手に観察していると、大発見があるかもしれませんね。

◆実践編◆
●いつ
 ほとんどの魚は日の出とともに活動を始め、日が沈むと休みます。観察には、水中に光がしっかり差し込む日中がいいですね。ちなみに、釣りなら、魚がエサを求めて活動する早朝と夕方がねらい目です。

●どこで
 ひとつの場所でいろいろな種類の魚を観察したいなら、吉野川本川よりむしろ支川がいいでしょう。佐藤先生のおすすめは鮎喰川。夏に観察会を行った梁瀬橋付近(徳島市入田町)は水深も浅く、流れもゆるやかなので、観察にはもってこい。梁瀬橋から5kmほど上流の広野橋付近(神山町広野)では中〜上流の魚も観察できます。水質がいいことで有名な穴吹川の河口付近(美馬市穴吹町)も観察に適していますが、キャンパーが多い季節は、魚も落ち着かないかもしれませんね。
 第十堰や河口付近は、魚はもちろん、ヤマトシジミやシオマネキ、シギやチドリなどの野鳥も多いので、いきもの観察入門編としておすすめです。潮が引いた時に出かけてみましょう。

●服装は?
 川に入る前に注意! 川底は岩にコケや藻がついていたりしてすべりやすいので、運動靴や釣り用の靴など、底がすべりにくい靴で入りましょう。はきなれた靴がいいですね。ガラスやとがった石が転がっていたり、毒をもった魚もいるので裸足やサンダルは危険です!

●どこを探せばいい?
 目の前の川をよく見てみましょう。一般的に、川の中央は流れが速く、岸に近い部分はゆるやかです。岩や石の多いところ、深い淵、ヨシやヤナギの生えた中洲、砂地…など、川の中にもいろんな場所があり、それぞれの場所にその環境を好む魚が生息しています。
 流れの速い瀬には、アユ、オイカワなど遊泳力のある、いわばス
プリンタータイプの魚がいます。早瀬の岩をよく見ると、オオヨシノボリが自慢(?)の腹ビレで岩にへばりついています。岸に近い砂地を好むのはシマドジョウやカマツカ。淵にはウグイやギンブナなどが楽しそうに泳いでいます。
 岩かげや水辺の草の中は流れがゆるいので、まだ泳ぐ力のない稚魚や幼魚が身をひそめています。モクズガニや小さなエビもいます。おっと!石の下にも魚はかくれていますが、アカザにはご注意を。こいつのトゲに刺されると痛いですからね。


【この人と吉野川】 第15回 正法寺(しょうほうじ)川を考える会
会長 米田 博さん
10周年を迎えた正法寺川を考える会。
なによりの記念になる手作り看板が川のほとりに立ちました

 藍住町の中心部を流れる正法寺川は、昔から利水に、また釣りや川遊びができる憩いの空間として親しまれてきました。ところがここ20年間の急激な人工増加により、水質はみるみる悪化し、県下でワースト5に入るほどになってしまいました。米田博さん達は、正法寺川を川遊びができる川にもどそうと、平成9年3月18日に会を設立。3月でちょうど10年目を迎えました。
 活動の基本は毎月第2日曜の河川清掃。年に一度は町民に呼びかけて、「クリーンアップ大作戦」と銘打った一斉清掃も行っています。また、水質検査の実施や、野鳥観察、水生生物観察会などのエコ・ウォッチング…と、コツコツと活動を広げてきました。米田さんの口癖、「身の丈に合った、楽しい、あせらない活動を、無理なく息長く」の通りに。
 13名でスタートした会も、今や70名近い大所帯。数年前から清掃活動に子ども達の姿がまじるようになりました。環境教育の一環で、米田さん達がゲストティーチャーとして地元の小中学校に招かれ、川の現状や会の活動について話したり、一緒に水質調査を行ったりするうちに、活動に興味を持った子ども達が参加するようになったのです。
 3月20日には、藍住北小4年生が手作りの啓発看板を設置しました。観察会で出会ったウナギやカメ、「川に笑顔を」などのメッセージを描いた力作が河岸で光っています。あと10年、20年したら、あの子達が今度は自分の子どもを連れて、きっと川にかえってきてくれる……「正法寺川がみんなをひきよせるんです」…川を眺めながら米田さんが笑いました。
【YOSHINOGAWA NEWS】
●「We Love 吉野川」今年は阿波市で開催!
 3月21日、阿波市の人気の立ち寄り湯・天然温泉御所の郷で、「We Love 吉野川in あわ」を開催しました。昨年の「in みよし」に続く第2弾で、吉野川流域のさまざまな魅力をアピールしたり、川を通じた交流を深め、もっともっと吉野川を好きになってもらおうというイベントです。夢いっぱいのバルーンショーに子ども達は大喜び。市場名物の錦鯉の稚魚すくいや、土成名物たらいうどんの手打ち体験は人気殺到で、うれしい悲鳴! 阿波市特産のナスや山菜を使ったクッキングショー、吉野川写真展、吉野川クイズラリー…と、見て、食べて、考える充実の一日に、お客さんも満足そうでした。

●「手づくり郷土賞」吉野川流域で2団体受賞
 うれしいニュースです。平成17年度「手づくり郷土賞」の発表があり、以前に同賞を受賞した団体の中で、その後も魅力的な活動をしている団体に贈られる「大賞」を、美馬市の「うだつと白壁の町並み」が受賞。地域活動部門では「NPO法人 新町川を守る会」が表彰されました。

●1月・2月には、昨年に引き続いて「吉野川の渡し」展が開催され、会議でも後援。吉野川渡し研究会と、阿波の峠を歩く会が研究成果を持ち寄っての力の入った写真展でした。
また、3月25日・4月8日には、吉野川フィールド講座「コアジサシのデコイ作り」も開催。親子でかわいいデコイを作り、阿波市西条大橋付近の河原に設置しました。
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